「太宰治論」 昭和31年 近代生活社
従来、様々な読み方が可能であった太宰の文学に、はじめて本格的な評価をあたえた論評である。「撰ばれてあることの 恍惚と不安と 二つわれにあり」というヴェルレーヌの句、『晩年』に用いられたエピグラフの句の分析からはじまる。世俗的には満ち足りた境遇にありながら、その境遇に不安と不満とをおぼえる太宰の立場は、地主の特権に安住できなかった多感な人間の心境として論じたものである。詳細な太宰の年譜も付す。
「日本文学史」 昭和45年 中央公論社
(近代から現代へ) (中公新書)
「散文というつねに功利性、実用性、思想性を含んで成立する小説というジャンルは、時代思想や現実から逃避し自己を超然と守ることが許されない。ここにつねに時代とともに自己をこわしながらすすんでいかなければならない小説という芸術の栄光と悲劇がある」という見地に立って、西洋近代文学に接触して以来の1世紀にわたる日本文学の本質的な動向と変遷と、その主要な文学者と作品を鳥瞰できるように記した文学史である。
「文学における原風景」 昭和47年 集英社
文学の“故郷”を探る長編評論で、縄文的空間から都市空間へ、文学をさあ得る風土や体験を、日本民族の性格と生活形態の原型の中に求め、現代文学の可能性を追求したものである。漂う生活空間、造形力の源泉、原っぱ・隅っこ・洞窟の幻想、深層の縄文的空間、地縁・歌枕・都市空間、ふたつの自然、他界の原風景、「自我」から「関係」へ、8項目にわたって論じた。(日本建築学会文化賞受賞)
「坂口安吾」 昭和47年 文芸春秋
「人間は生き、人間は堕ちる。このこと以外の中に人間を救う便利な近道はない」・・・。敗戦の混乱の中、「風」のような笑いと、「石」のようなニヒリズムをもって、焼け跡を駆け抜けた坂口安吾。そのめくるめく精神の振幅を、過酷な人生と作品群から総合的に論じた批評文学である。
「“間”の構造」 昭和58年 集英社
イデオロギーや近代自我より、もっと古くからの自然と人間、人間と人間の関係やイメージに着目し、「文学は可能か」「文学における原風景」を綜合した個我の内面性と自然や人間の関係を論じ、都市論、水・土・森林・木・火・風などの自然界の物質論、日本人論、記号論、芸術論、文明論が文学論に関連しつつ、またその枠を超えて論じたものである。
(平林たい子文学賞受賞)(日本建築学会百周年記念文化賞受賞)
「三島由紀夫伝説」 平成5年 新潮社
昭和のまがまがしい異形の悪夢を背負って生き、死んだ天才の「仮面の生涯」三島由紀夫をめぐる隠された「伝説」の謎に迫ったもので、不思議な共感、三島由紀夫の生まれ育った時代、異常な幼少期、『彩絵硝子』から『花ざかりの森』へ、死への接近『盗賊』、『仮面の告白』、『潮騒』と『鍵のかかる部屋』の矛盾、『金閣寺』の狂気と成功、『鏡子の部屋』の不思議、三島由紀夫の昭和天皇観、肉体的歓声と死など、30項目にわたって論じたものである。(芸術選奨文部大臣賞受賞)
奥野健男 年代順著作リスト
1956年
『太宰治論』 近代生活社
『現代作家論』 近代生活社
1958年
『太宰治』 <現代作家論全集第十巻> 五月書房
1959年
『日本文学の病状』 五月書房
1960年
『太宰治論』 角川書店・角川文庫
『太宰治』 <人生論読本第4巻> (編著) 角川書店
1964年
『文学的制覇』 春秋社
『文学は可能か』 角川書店
『二刀流文明論』 冬樹社
1966年
『太宰治論 決定版』 春秋社
『恍惚と不安』 ―太宰治昭和11年― 養神書院
1967年
『現代文学の基軸』 徳間書店
『文壇博物誌』 読売新聞社
1968年
『太宰治論 増補決定版』 春秋社
『文学風土記』 筑摩書房
1970年
『新編 文学は可能か』 冬樹社
『日本文学史』 ―近代から現代へ―
中央公論社・中公新書
1972年
『文学における原風景』 ―原っぱ・洞窟の幻想―
集英社
『坂口安吾』 文藝春秋
『戦後文学の青春』 第三文明社・レグルス文庫
『状況と予兆』 潮出版社
1973年
『太宰治』 文藝春秋
『無頼と異端』 国文社
『文学の原像を求めて』 潮出版社
『科学の眼・文学の眼』 ―私の原風景 冬樹社
『高見順』 国文社
1974年
『女流作家論』 ―小説は本質的に女性のものか―
第三文明社
1976年
『現代文学風土記』 集英社
・全集 『奥野健男文学論集』(全3巻) 泰流社
1977年
・全集 『奥野健男作家論集』(全5巻) 泰流社
『山本周五郎』 創樹社
『作家の表象』 ―現代作家116― (尾崎秀樹・共著)
時事通信社
1978年
『島尾敏雄』 泰流社
『北杜夫の文学世界』 中央公論社
『深層日本紀行』 ―ヤポネシア史観の形成へ―
毎日新聞社
『素顔の作家達』 ―現代作家132人― 集英社
『太宰治研究T その文学』 (編著) 筑摩書房
1980年
『伊藤整』 潮出版社
1981年
『小説のなかの人間たち』 ―関係性の文学― 集英社
1982年
『北杜夫の文学世界』 中央公論社・中公文庫
1983年
『小説のなかの銀座』 砂小屋書房
『”間”の構造』 ―文学における関係素― 集英社
1984年
『太宰治論』 新潮社・新潮文庫
1985年
『歴史の斜面に立つ女たち』
―文学のなかに女性像を追う― 毎日新聞社
『室生犀星評価の変遷』 ―その文学と時代― (編著)
三弥井書店
1989年
『文学における原風景 増補版』 集英社
1990年
『文学は死滅するか』 ―奥野健男自選評論集
学藝書林
『芸術の辺際』 (評論集上巻) 阿部出版
『往相還相』 (評論集下巻) 阿部出版
1991年
『ねえやが消えて』 ―演劇的家庭論― 河出書房新社
1993年
『三島由紀夫伝説』 新潮社
『奥野健男 文芸時評1976年〜1992年』
河出書房新社
1995年
『越境する文芸批評』 平凡社
『太平洋戦争 兵士と市民の記録』 集英社 集英社文庫
奥野健男 監修
1996年
『坂口安吾』 文藝春秋・文春文庫
1997年
『この一冊で 日本の作家がわかる!』三笠書房 知的生きかた文庫
奥野健男 監修
1998年
『太宰治』 文藝春秋・文春文庫
1999年
『文学のトポロジー』 河出書房新社 (遺作)
2000年
『三島由紀夫伝説』 新潮社・新潮文庫
主な著作