悠久の果てに…(創作1byむく)

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第十三章 女王誕生、そして…

 
  ランディに送られてアンジェリークが部屋へ戻ると、宮殿から呼び出しが来ていた。急いで顔を洗ったが、まだ目が赤い。それでも仕方ないので、宮殿に向かった。女王陛下とロザリアが待っていた。
「さきほどの闇のサクリアでアルフォンシアのエネルギーが臨海に達しました。もうじき新宇宙が誕生します。すぐに星の間へ。」

 その瞬間は、直接立ち会ったアンジェリークだけではなく、すべての守護聖にも感じられた。

 アンジェリークのアルフォンシアが……!!

 誰しもがアンジェリークが新宇宙の女王と信じて疑わなかった。しかし、翌日アンジェリークはひとりで宮殿に呼び出されたのだった。女王が言った。
「もしも、想いを寄せる人がいるのなら、悔いの残らないように…」
昨日宮殿に来たときの、アンジェリークの泣きはらした目を女王は気にしていたのだ。しかし、今日のアンジェリークはしっかりと女王を見つめ言った。
「いいえ、何も思い残すことはありません。わたし、女王になります。」

 新宇宙の女王誕生である。同じく女王候補だったレイチェルが補佐官をつとめることになった。即位が行われる。守護聖たちも教官を務めた者たちもそれぞれ新女王陛下に祝いの言葉を告げる。アンジェリークの顔ははればれとしていた。リーシアスはそれを見て安心したが、ランディのほうは安心はしたものの、これでもう会えなくなると思うと、心がふさがれる思いだった。

 祝賀と送別のためのパーティの席上でランディは思い切って、アンジェリークに話しかけた。それでも、今ここで自分の気持ちをうち明けるのは無理だと感じ、ただ、アンジェリークの門出を祝い、励ますような普通のことしか言えなかった。

 リーシアスは、そんなランディとアンジェリークを離れたところで見ていたが、ふいにゼフェルに声をかけられた。
「なー、あいつら、どうなったんだろうな。」
リーシアスの耳元にささやいたゼフェルが示しているのは、ランディとアンジェリークのことである。この前のランディとリーシアスの喧嘩で、ゼフェルもなんとなく状況を察していたのだ。ただ、リーシアスが女だということはまだ知らないので、真実を見抜いているわけではない。一方、リーシアスのほうは、ゼフェルが自分を女と知ったら、態度が変わるのではないかと心配していたので、前とまったく変わらないゼフェルの様子に安心した。ゼフェルだけ真実を知らされていないなんてことは想像もしない。さっき、オリヴィエに、
「せっかくのパーティなのに、あんたは、ドレス着ないのぉ?んーもったいねー。」
と言われただけで、他の守護聖たちの態度もいっさい変わってなかったからだ。それで同じようにゼフェルの耳元にささやき返した。
「どうなってるんだろうね。でも、他人が世話やくことじゃないし。」
「そりゃ、そうだな。そうだ、新しいパーツが届いたんで、エアバイクの改造するんだ。今度の日の曜日におれんち来ないか?おめーにも見てもらいたいからよ。」
「あ、この前言ってたやつだね。うん、OK。」
「改造が済んだら、おめーも乗せてやるぜ。馬に乗せてもらったしな。」
「あはは、ちょっと心配な気もするけど、楽しみにしておくよ。」

 アンジェリークが新宇宙に去った次の日の曜日。リーシアスがゼフェルの私邸を訪ねると、すでにゼフェルはエアバイクの改造作業に取りかかっていた。リーシアスの顔を見てゼフェルが言う。
「よ、リー。ちょうどいいとこに来たな。ちょっとここんとこ手伝ってくれよ。」
共同で作業を進めたので、思ったより早く改造は完成した。
「じゃ、さっそく試運転と行くか。」
「大丈夫かなー。」
リーシアスがわざと言う。改造、といってもエンジン部分をいじったわけではない。センサーをつけたり、通信機を仕込んだり、といったものである。
「あったりめーじゃんか。このゼフェルさまがやったんだぜ。さ、後ろに乗れよ。」
エンジンを吹かせて青空に舞い上がる。

 「快調、快調。ちょっと遠出してみるか。」
そう言うとゼフェルは外界に出てしまった。リーシアスが慌てる。
「ちょ、ちょっとゼフェル。許可もなく、外に出るなんて。」
ゼフェルは全然気にしてない。
「すぐ戻れば大丈夫だって。今なら外で何時間も過ごしても、あっちじゃほんの数分しか経たないからよ。聖地の空なんて狭くて、乗っても面白くありゃしねー。ちゃんと食い物も持ってきたし。」
そのまま一直線に空を駆ける。ちょっと試運転、にしては大きめのバッグを持ってるな、と不審には思っていたのだが、ゼフェルは最初から外界へ出かけるつもりだったようだ。ひとりで戻ることもできないので、リーシアスは黙ってついて行くしかなかった。

 しばらくして、急に黒い雲が広がりだした。
「なんか、やべーな、戻るか。」
ゼフェルがそう言ったときはすでに遅かった。稲光が閃き、あっという間に大粒の雨がふたりの身体をたたきつけ始めた。
「うわっ、とりあえず、あそこで雨宿りだ。」
それは、林の中に立てられた、作業用の小屋のようだった。今は使っていないようで、誰もいない。土間になっている作業場にバイクを乗り入れてから、部屋に続くドアに手をかけると、鍵もかかっておらず、中に入ることができた。

 「うー、冷てー。」
二人ともずぶ濡れである。部屋の中には暖炉があった。
「お、ちょうどいいや、ここに火を付けよう。寒くてやってらんないぜ。」
炎が赤々と燃え上がると、ゼフェルはいきなり上半身、服を脱ぎだした。
「かわかさねーと風邪ひくな。タオルも持ってきたはずだったよな。」
そう言って、バッグからバスタオルを取り出した。
「おい、おめーも脱いだほうがいいぜ。」
リーシアスはあっけに取られた。
「え?」
(ちょ、ちょっと待って。ロザリアさま、ゼフェルには言ってないのか?)
「なにやってんだよー、リー。マジで風邪ひくぜ。男どうしで恥ずかしがることもねーだろ。」
リーシアスがじっと動かないので、ゼフェルが言った。決定的である。しかし、たしかに濡れた服を着たままで火に当たっているのも、好ましからざる状況だ。

 「あの、ゼフェル…」
(自分で言わないとだめだな。)
そう思ったが、どうしても声が小さくなってしまう。炎が燃える音にかき消される。
「ん?何言ってんだ?聞こえねーよ。」
ゼフェルがリーシアスに近寄った。
「早く脱げよ。」
リーシアスが一歩下がる。
「わかった、わかったよ。脱ぐからそっちを向いていてくれ。」
「はぁ?」
ゼフェルが怪訝そうな顔をする。リーシアスが言った。
「わたしは、女なんだから。」

 一瞬何を言われたのかゼフェルには理解できない。しばらくの沈黙の後…
「おんな…?女だぁ?そりゃ、いってー…」
後の言葉が続かない。しかし、リーシアスの真剣な瞳は、嘘をついているようには見えなかった。どう答えていいのかわからない。そのときリーシアスが小さくくしゃみをした。ぶるっと身体を震わせる。
「あ、とりあえずよくわかんねーけど、わかったから、その…」
言ってることはめちゃくちゃだが、手に持っていたバスタオルをリーシアスに投げ、
「おれはこっちを向いてっから、これを使えよ。」
そう言って、背を向けた。リーシアスもゼフェルに背を向けると、濡れた服を脱ぎ始めた。ゼフェルの心中は驚きに渦巻いている。

 (女?それっていったいどういうことなんだ、わけわかんねーぜ)
そう考えてふと窓に目をやると、外が薄暗いせいで、ガラスにリーシアスの白い背中が映っていた。服を着ていても細いとは思っていたが、素肌の背中はいっそう細かった。次の瞬間、はっとして目をそらす。

 リーシアスは濡れた服を脱ぎ終わると、ゼフェルが投げて寄越したタオルを肩からかけ、前で合わせた。濡れた服を火の前に広げ、その近くに座ると、ゼフェルに声をかけた。
「ゼフェル、いいよ。もっと火の近くに来ないと、寒いだろ。」
ゼフェルがゆっくり振り向いたが、なるべくリーシアスのほうは見ないようにして、暖炉の前に並んで座る。何も言わない。ふと、オリヴィエと一緒に公園で会った少女の顔が脳裏に浮かんだ。今でもはっきりその笑顔は覚えている。それがリーシアスの笑顔と重なった。はっとする。

 「あのときの、リーリィ!やっぱりあれはおめーだったんだな!」
思わずリーシアスのほうを見たが、タオルをまとっただけの彼女の姿に、ぎょっとしてまた顔をそらす。その頬が赤くなってるのは、炎にあたってるためだけではなさそうだ。
「やっぱり?」
リーシアスは一瞬怪訝な顔をしたが、
「そうだよ。オリヴィエさまはいたずら好きだから。」
と答えた。ゼフェルは面白くない。
「じゃ、オリヴィエは知っていたってことだよな、おめーが女だってこと。もしかして、他の連中も知ってたのかよ。知らなかったのはおれだけなのか?」
そう言って、ゼフェルは不機嫌そうに炎を見つめた。

 

第十四章
(第十三章 コメント)
 
むく 「だいぶ前に書いてあったので、今読み返すと、恥ずかしいですね?(^^ゞ」
ゼフェルさま 「恥ずかしいのはこっちだせ、まったく。なんだよ、このシチュエーションはっ」
むく 「えっと・・・」

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