悠久の果てに…(創作1byむく)

とっぷに戻る

 
第四章 晩餐会

 
 宮殿に着くと、まずオスカーが声をかけてきた。
「おれと共に聖地の警護の任に付くようにとの陛下の仰せだ。」
「よろしくお願いします。」
と丁寧に頭を下げると、その頭に軽く手をのせてオスカーが言った。
「そんなにかしこまることないさ、坊や。相当剣の腕がたつそうだな。今度ひとつお手合わせ願いたい。」

 坊やと言われたことに内心むっとしながらも、そんなことは表情にも出さずに、
「お手柔らかに願います。」
とさらにかしこまっていると、突然
「あっら〜、よく似合ってるじゃないのぉ」
と声がした。オリヴィエだ。
「ん?おれのことか?」
オスカーがわざと言うと、
「あんたにそんなこと言ったってしょうがないでしょぉ。」
と答えてからリーシアスの方へ向き直り、
「へぇ、さっき着てたのも良かったけど、ちょっと地味めだったものね。これはあんたの髪の色に合わせた色合いを使っているから、映えるんだねぇ。」
とさすがにファッションにはうるさいぞ、という感じで付け加えた。
 

 そうしているうちにも晩餐会に招待された者たちが次々に到着する。守護聖の他に、女王試験中の二人の女王候補アンジェリークとレイチェル、彼女たちの教官のヴィクトール、ティムカ、セイラン、占い師のメル、そして王立研究院のエルンストも招待されており、人数が多いので立食形式である。女王の挨拶で始まり、ルヴァがロザリアと結婚して聖地に残ることが発表されると、会場内はどよめいた。皆がふたりに祝福の言葉をかけ、ふたりは照れながらもうれしそうだ。

 ゼフェルもうれしい気持ちになっていた。そっかー、ルヴァのヤツ、聖地からいなくなるのかと思っていたら、そうじゃねーのか。淋しいとは一言も口にしてなかったが、ずっと自分の面倒を見てくれて、唯一心の許せる存在だったルヴァがいなくなる、と思うことはゼフェル自身はっきりとは気付いていなかったが、かなりの心の負担になっていたのだった。

 その安心感と、ジュリアスの目を盗んで飲んだお酒の酔いのせいでいつになく陽気になったゼフェルは、リーシアスにもあれこれ話しかけた。昼に林で会ったときの鳥型メカ(マルセル曰く「メカチュピ」)の話をきっかけに、リーシアスの専攻も工学系とわかると、ますます盛り上がり、ゼフェルはリーシアスの第一印象が「気にいらねーヤツ」だったことも忘れ、すっかり意気投合。そこへ、ランディとマルセルも加わっていつのまにやら次の日の曜日の遊びの計画の話になっている。
 

 それを遠目に見ながら、クラヴィスが、
「子供たちというのはすぐに仲良くなるものだな…」
とつぶやくように言うと、リュミエールが、
「そうですね。楽しそうでよろこばしいことです。」
と相づちを打った。そういうふたりも会場内のうきうきとした空気に影響されたのか、いつになく華やいだ気分になっている。

 さらに離れた場所で、ロザリアがルヴァとジュリアスにこっそりささやいた。
「誰もリーシアスの性別について疑問をもった様子はないですね。」
ジュリアスが頷く。
「そうだな。服装のせいもあるのかもしれないが、知っていても女性には見えない。」
ルヴァはちょっと心配顔である。
「でもー、ずっとこのままというわけにはいきませんよねー。いつか折を見てみなさんにもお話しないとー。」
「ええ、ルヴァ。それは心得ておりますわ。」
とロザリアが言っても、ルヴァはまだなんとなく不安げだ。
「さきほどからアンジェリークがリーシアスの方ばかり見てるんですよねー。いえ、私の取り越し苦労ならいいんですけどねー。」
 

 そう言われてロザリアがアンジェリークの方を見ると、彼女は、ちょうどランディに声をかけられてリーシアス達の話の輪に加わったところだった。確かにアンジェリークは、他の人が話をしているときもちらちらとリーシアスを気にしている様子だ。でも、とロザリアは思った。
「ルヴァの考えすぎですわ。今日初めて会ったのではありませんか。リーシアスは綺麗なコだから、アンジェリークが気にしてもおかしくないと思います。」
「そうだといいんですけどねー。」
「ルヴァ。そなたの方こそ、なぜアンジェリークがリーシアスばかり見てると気付いたのだ?」
とジュリアスに言われ、ルヴァが、
「それはー、その…」
と答えにつまるのをちらっと横目に見ながら、
「いずれにせよ、落ち着いたら私から皆様に事情をお話することにしていますから。」
とロザリアが言った。

 「今のところ、知っているのは誰と誰なのか、確認しておきたいのだが。」
というジュリアスの質問にロザリアが答えた。
「この3人以外では、陛下、エルンストと数名の研究員、リーシアスの屋敷で働く者のうちごく身近な者数名、ティムカ、メル、そして日の曜日に公園に出店している商人のチャーリー、ですね。」
ジュリアスが眉をひそめる。
「ティムカとメルとチャーリーがなぜ知っているのだ?」
「ティムカとチャーリーは聖地に来る前から、リーシアスと直接の知り合いなんだそうです。メルはさきほどリーシアスに聖地を案内したときに偶然会って、リーシアスの運勢を占ってくださるというので、お任せしたら…見抜かれてしまいました。なんでも、男性と女性とでは、水晶球に映されるオーラのようなものの色が微妙に違うのだということで…さすがに腕のいい占い師だけのことはありますわね。みなさまには当面内密にとは伝えておきましたが…。」
「それでは、場合によってはそなたが話す前に露見することもあり得るのだな?」
とジュリアスがさらに問うので、ロザリアは頷きながら、
「ええ、ですから、状況を見ながら真実をお話する時期を見極めます。」
と答えた。

 ジュリアスたちが声をひそめるように話しているところへ、
「ねぇねぇ、深刻そうになんのお話ぃ?みぃんなでリーシアスの方を眺めながらさ。」
と突然オリヴィエが割り込んできた。一同、はっとなったが、
「あー、リーシアスはとても博識なんですよー。」
と、ぼーっとしているようでも、とっさに機転をきかしたのはルヴァである。
「さきほど皆様にお集まりいただく間に、引継のこともあって、いろいろお話したのですが、実にいろいろなことをよく知ってますねー、あのコは。」
「へぇ、そうなんだ。例えば?」
半ば疑っているのか、しっかりつっこむあたりがオリヴィエらしい。
「そうですねー、例えばわたしが好んでいろいろなものを取り寄せている辺境の惑星、あの惑星のことも知っていたんですよ。」

 これには、オリヴィエだけじゃなく、居合わせた者全員が驚いた。
「あの、トーフとなんたらのスープ、とか、ナガシソーメン、とかを?」
半信半疑でオリヴィエが問う。これらは以前ルヴァがオリヴィエに紹介したことのあるものである。
「あ、トーフとネギ、ですが…食べ物の話はしませんでしたけどねー、伝統武芸の話をちょっと…それから、専門が工学系ということで、技術の話もいろいろ知っていて、そのあたりになると、わたしにもよくわからないことをいろいろ知っているようでしたよ。」
 

 「ルヴァがそう言うのならば、間違いないことなのであろうな。」
感心したようにジュリアスが言った。
「しかも、剣の腕も確かというので、さきほどオスカーの補佐として聖地の警護の任に付くよう陛下のご下命があったところであるし、文武両道、とはまさにこのこと。」
とさらに続ける。オリヴィエも感心して言った。
「へぇ、聖地の警護。まるで女の子みたいな感じなのにねぇ。」
ぎくっ。ぎくぎくぎくっ…ジュリアスをはじめ、事情を知る者の心に動揺が走った。その様子にオリヴィエが気付かないはずはなかったが、なぜかそのことには触れず、にっと笑うと、
「それじゃ、こんなとこで眺めてないで、本人とお話してこーよぉっと。」
と歩み去った。

 「今からこれじゃ、先が思いやられますねー、ロザリア。」
オリヴィエが去ると、ルヴァが言った。
「そうですわね。」
ロザリアも不安な面もちでオリヴィエの後ろ姿を見やった。
 

 「はーい、楽しそうねぇ。わたしもまぜてくんなーい?」
「あ、オリヴィエさま。今、次の日曜にリーシアスの歓迎でなにかしようという話になって、ピクニック案とテニス案と2つ出ているんですが、オリヴィエさまはどう思いますか?」
オリヴィエの問いかけに、律儀に説明したのはランディである。
「かんじんのリーシアスはどっちがいいって言ってるのかなぁ?」
とオリヴィエが見ると、
「あの、どちらでも…」
と、まだ完全には雰囲気になじめず遠慮気味という感じなので、
「あら、だめよぉ。こういうときはぁ、ちゃんと自分の意志をしっかり言わなきゃぁ、ねぇ。」
とリーシアスの肩を軽く叩いた。そして次の瞬間
(やっぱり…)
と思ったのである。それからしばらくは、オリヴィエは何を話しかけられても上の空で答えていた。

 (ふぅん、このコの肩を叩いたときの感触、この骨格が男の子であるはずないよね。他の連中はだまされても、このオリヴィエさまはだまされないよ。でもねー、確かにこのコからは地のサクリアを感じるから、ニセ者ってことはなさそうだしぃ、一体どういうことなのかしら…。んー…。たしかに、びっくりすることだけど、なにも隠さなくてもいいのにね…)

 知らず知らずのうちにリーシアスの横顔を見つめてしまっていたので、リーシアスがそれに気づき、一瞬とまどったような表情を見せながらも、にっこりとオリヴィエに微笑みかけた。オリヴィエも微笑み返す。
(あら、かわいいじゃないのぉ。ま、いいか。今はこのコも上の連中もなんだか知らないけど、隠しておきたがってるみたいだから、ちょこっと様子をみることにしよう。)
 

第五章
(第四章 コメント)
 
むく 「今回は特に言い訳しないといけないこと、ってないかな…?」
オリヴィエさま 「ちょっとぉ、せっかく来たのに、それはないでしょぉ。なんか言わせなさいよぉ。」
むく 「ええと、肩を叩いただけで、男の子か女の子かわかっちゃうなんてさすがですねー。」
オリヴィエさま 「そーおぉ?」(^o^)
むく 「あ、それと、サクリアって、その本人から発してるってのが、わかるようなものなんでしょうかね?」
オリヴィエさま 「わからなかったら、新しい守護聖、どうやってさがすのよー。それよりさ、男と女で水晶球に映るオーラの色が違うわけ?」
むく 「ぎくっ」

とっぷに戻る