悠久の果てに…(創作1byむく)

とっぷに戻る

 
第二章 新しい仲間

 
  聖地、日の曜日。休日というのに急に宮殿に召集された守護聖達は、ルヴァの地のサクリアの減退を感じ取っていたこともあって、各々が不安な面もちでいた。しかし、女王と補佐官のロザリアはもちろん、ルヴァとジュリアスもまだ来てない。

 「あーあ、せっかくの休日に呼び出しといてよー、いってー、いつまで待たせる気なんだ。」
その場の雰囲気に耐えきれずについに鋼の守護聖ゼフェルが悪態をついたとき、女王が補佐官を伴って現れた。
「皆さんもすでにお察しのことと思いますが、このたび地の守護聖の交替が行われます。さきほど新任の地の守護聖が聖地に到着しましたので、紹介します。」
ロザリアがそう言うと、ジュリアスとルヴァに伴われ、新任の地の守護聖が入ってきた。各々は各自の定位置に整列すべく移動し始める。その途中で、
「へぇ、綺麗なコだねぇ。化粧のしがいがありそ。」
夢の守護聖オリヴィエがこそっと、炎の守護聖オスカーにささやいた。
「おいおい、マルセルだけじゃ飽き足らなくて、今度はあの坊やが犠牲になるのか。かわいそうに。」
オスカーもささやき返す。一方、風の守護聖ランディも、定位置に付く前に、
「ねぇ、僕たちよりちょっと若い位みたいだね。友だちになれるかな。」
とゼフェルにささやいたが、ゼフェルはなにやら苛立った様子で、ひとこと
「知るか」
と言ったきり、そっぽを向いて、自分の定位置に立った。
 

 事実、ゼフェルは苛立っていた。今回の地のサクリアの交替が急激なものなのは感じている。自分の時以上かもしれない。となると新任の守護聖はさぞかし取り乱しているのではないか、と彼なりに心配していたのだ。ところが、今ジュリアスとルヴァに伴われて入ってきた少年(とゼフェルは思っている)は、自分よりも幼そうな感じのくせに、少し緊張ぎみなもののいささかの動揺も感じられない。そうなると今度は悔しくなった。これじゃまるでおれだけがガキみたいじゃねーか。気に入らねーヤツ…

 加えて、ルヴァが去る、という事実が余計彼の心を重くしていた。だから、ロザリアに促されて、新しい地の守護聖が、皆の前で
「リーシアスと申します。よろしくお願いします。」
と挨拶をしたときも見なかったし、整列している守護聖ひとりずつを紹介するために、順番に回ってきたときも、ロザリアに
「ゼフェル、どこを向いているの。」
と注意されるまで、窓の外の方が気になるような顔で、無視していた。 
 

  しかし、いつまでもそうやってふてくされているわけにもいかない。ロザリアに呼ばれてやっと気が付いた、というふうを装い、しぶしぶリーシアスの方に向き直った途端に目が合った。深く澄んだ青い瞳が自分を見つめている…。

 一方、リーシアスは、聖地に着く早々、最初に引き合わされたのがジュリアスだったこともあって、見知らぬ土地で緊張の連続だったのであるが、ランディ、マルセルなど同年代の守護聖も紹介され、少しほっとしてきたところだった。そして、また自分と近い年代の守護聖である。親近感が湧いて、にこやかにゼフェルに挨拶したのだった。ところが、このにこやかさが余計ゼフェルのしゃくにさわった。

 「鋼の守護聖、ゼフェルだ。これで、挨拶はしたぜ。もういいだろ。」
最後の方はロザリアに言い、そのまま部屋を出て行ってしまったのだ。
「気にすることないよ、リーシアス。ゼフェルってばいつでもあんなんだから。」
緑の守護聖マルセルが声をかける。
 

 「そーよぉ、あんな唐変木のことは気にすることないわよー。それより早くこの夢の守護聖オリヴィエをリーシアスに紹介してちょうだいな、ロザリア。」
オリヴィエに言われ、半ばゼフェルを追いかけるようにドア近くに行っていたロザリアは、ゼフェルが開けたままにしていった扉を閉めた後オリヴィエの近くまで戻ると、
「こちらが美しさをもたらす夢の守護聖オリヴィエよ。」
と紹介を続けた。

 「はーい、オリヴィエよ。あんたってすっごく綺麗な肌してるのねぇ。」
いきなり肌のことを話題にされて、リーシアスは面食らったが、
「だめだよ、オリヴィエさま。リーシアスがびっくりしてるじゃないですか。リーシアスにお化粧しちゃう気でしょ。」
とマルセルが言うのに、
「それじゃ、また、マルセルちゃんがお相手してくれるのー?」
とオリヴィエが答え、当のマルセルがぷーっとふくれるのを見て、思わず笑った。いや、リーシアスだけじゃなく、マルセル以外の全員が笑い、一旦はふくれたマルセルも一緒に笑い出し、その場の雰囲気は和やかになった。
 

 「一通り紹介も済んだので、これで解散にしますが、今夜宮中で女王主催の晩餐会を行いますから、皆様遅れないようにいらっしゃってくださいね。リーシアスには聖地を案内しましょう。」
ロザリアの言葉に散会となった。皆が去った後で、ロザリアがリーシアスに言った。
「それではまずバルコニーに参りましょうか。」

 聖地を見渡せる宮殿のバルコニーでロザリアがざっと説明する。
「現在女王試験が行われているという話は聞きましたか?」
「はい。さきほどルヴァさまにうかがいました。」
「女王候補は二人、レイチェル・ハートとアンジェリーク・コレット。彼女たちの寮があちらの建物です。それから、この女王試験のために特別においでいただいた教官がたの執務室があちらの建物。右手遠くに見えているのが王立研究院になります。」
一通り説明するとロザリアは、リーシアスの顔を見ながら言った。
「女王候補の部屋のある建物の向こう側が公園になっています。今から全部を回っていたのでは時間がかかりすぎますので、公園に行って他の建物への道順だけを説明しましょう。」
 

 日の曜日の公園。公園の前での道案内が済むと、少し散策しましょうかと、ロザリアとリーシアスは園内に入った。それを、店を開いていたチャーリーが見つけ、驚いて寄ってきた。
「おやぁ、リーシアス殿下やおまへんか。なんでロザリアはんと一緒にこないなとこに?」
「チャーリーさんこそなぜここに?」
驚き顔を見合わせている二人にロザリアが問いかけた。
「お二人はお知り合いなのかしら?」
「そらもう、ソマリ王室いうたら大のお得意さんやし、あちこちのパーティなどてもよく会うてますわ。」
「それなら紹介する手間が省けたわね。新任の地の守護聖です。」

 ロザリアがそう言った途端のチャーリーの驚きようは、先ほどまでとは比べものにならないものだった。
「えーーーーーーーーー!!!!!?????」
そう叫んだきり、しばらく声が出ないようだったが、やっとのことで、
「だけど、殿下はお、お、お」
と言いかけ、くちをぱくぱくさせて、また詰まった。


 ロザリアはため息をつき、リーシアスを見た。
「確かに異例のことではありますが、事実なんです。リーシアスが女性であることは、当面の間、他言しないようお願いします、チャーリー。」
言われたチャーリーはうなずき、やっと落ち着いて話し出した。
「そないなこともあるんですなぁ。そや、おれの正体も秘密なんで、そこんとこよろしう頼みまっせ、殿下。あ、殿下はまずいわ、えと、リーシアス、さま。」
そのとって付けたような言い方には思わずリーシアスも笑い出した。

 「そや、ティムカさまも聖地においでになってまっせ。」
「え?ほんとに?」
驚くリーシアスにロザリアが言った。
「ええ、ティムカには女王候補の品位の教官をお願いしています。お知り合い?なのよねぇ…」
最後の方はあきらめ気味の口調だ。
「でも、それじゃ、白亜宮の惑星の王は……?彼がそんなに長く国を留守にして大丈夫なんですか?」

 ここで初めてリーシアスに聖地の時の流れの例外を告げていないことをロザリアは思い出した。
「女王試験実施中は聖地と外界の時間の流れは同じになるように調整されています。でないと、女王にならなかった候補の方が、故郷に帰った場合に困ったことになりますからね。」
「それじゃぁ…」
リーシアスの両目が大きく見開かれた。そんなリーシアスの胸中はロザリアは察して言った。
「そうですね、今回の召還は非常に慌ただしいものでしたから、女王試験が終了する前であれば、一旦里帰りすることも可能です。…もしもその気があるのであれば。」
すでに決意して出てきたのであれば、もう一度、今度こそ今生の別れを告げに行けというのは、かえって酷ではないのだろうか、そういう思いが最後の一言を付け加えさせた。リーシアスにもロザリアの言わんとするところは通じたようで、
「そうですね。」
と言ったきり、黙ってしまった。

 その場の沈黙に耐えられなくなったチャーリーがまず口を開いた。
「そや、ティムカさまにもリーシアスさまの件、口止めしとかなあかんのでは?ロザリアさま」
「口止めって、そんな人聞きの悪い…でも、まぁ、そうねぇ…」
バツが悪いようにロザリアが口ごもると、チャーリーが、
「ほな、おれからティムカさまにはいうときましょ。」
と言ったので、
「それでは、お願いしますわ。」
と言い残し、ロザリアとリーシアスは公園を後にした。 


 
第三章
(第二章 コメント)
 
むく 「わたくしは、生まれも育ちも関東であります。わたくしの母は”ひ”と”し”の区別のつかない江戸っ子…なので、チャーリーさんの言葉遣い、えせ関西弁ですみません。雰囲気だけのまねっこで許してください。」
チャーリーさま 「おれのは、”関西弁”じゃなくて、とある商業惑星の方言なんやから、あんたが気にすることあらへん。」
むく 「それでも、ここはこう直した方がいいというようなご指摘がありましたら、教えていただけるとうれしいです。」
チャーリーさま 「それ、誰にゆうてんねん?」
むく 「読者のみなさまに…(^_^;)」

とっぷに戻る