一番重要な報告をどのように切り出そうか迷っていたエルンストは、簡単にロザリアに指摘され、ややうろたえたものの、冷静な口調で
「その通りです、ロザリア様。」
と言ってから、女王の方を向き直ると
「過去のデータ全てを調べてみました。先代の女王陛下の統べていた宇宙でのデータも全部です。が、女性の守護聖というのは存在しません。宇宙始まって以来のことと思われます。しかし、その女性が急速に地のサクリアに目覚めつつあるのは間違いありません。」
と付け加えた。
「まあ…」
と言ったきり黙っている女王の隣で、
「おやー、そうなんですかー。そんなこともあるんですねー。」
と、まるで今日の天気のことでも話題にしているような呑気さでルヴァが言ったので、女王も我に返り、ルヴァを見やった。他のふたりもつられてルヴァを見た。全員にいっせいに見られたルヴァは、
「おやー、わたしは何か変なことを申したでしょうかー」
とあいかわらずのんびりした調子である。そこへロザリアが
「いえ、ルヴァの言うとおりですわ。事実である以上わたくしたちはそれを受け入れるしかないではないですか。」
と言うと、女王もうなずくき、
「そうね、エルンスト。報告を続けてちょうだい。その方が女性であることはわかりました。その他のデータは?たとえば、聖地、守護聖、女王などに関する知識を前もって持っているのかしら?」
と、先を促した。
エルンストは手にしたデータを見返し、報告を続ける。
「はい、仮にも一惑星の王族ですから、聖地などに関する基本的な知識は持ち合わせています。といいますか、このソマリを有する恒星系は先代の女王陛下の宇宙からこちらへ移されたもので、ソマリ王族もかなり古い歴史を持っており、過去に女王を出したこともある家柄です。むしろ女王教育は受けていると言った方がいいかもしれません。」
「それなら今回のような急な召還でもすんなり受け入れてもらえそうね。」
女王が安心したようににこやかに言うと、エルンストは
「すんなりかどうかはわかりません。一惑星とは言え、王となり民を統べるつもりでいたのに、宇宙の女王陛下のためとはいえ、他に仕える身とならなければならないのですから、その胸中は複雑かと推察されます。でも、現守護聖はルヴァさまですし、前回のゼフェルさまの件のようなことは起こらないと思いますが。」
と答えたので、ルヴァの顔が曇った。
「ええ、ええ、ゼフェルのことはねー、私も心が痛みましたからねー。」
同じように表情を曇らしたロザリアとはうらはらに女王はきょとんとしている。
「ゼフェルがどうかしたの?」
「陛下はご存知無かったんですか。」
とロザリアが呆れたように言うと、女王はしゅんとして、小さくうなずいた。
「わたくしたちが女王候補に選ばれた時よりも前の話ですから、ご存知なくてもしかたないのかもしれませんが、王立研究院の極秘記録には残ってます。エルンストだって、研究院に来る前の話なのに、ちゃんと知ってるじゃないですか。陛下はちょっと勉強不足じゃ…」
とロザリアが一気に言うのをルヴァがさえぎり、
「まぁまぁ、ロザリア。その話はまた今度と言うことにして、報告の続きをききましょー。」
と取りなした。
「そうでしたわね。急ぎ新しい地の守護聖を招き入れなければルヴァも安心できませんよね。いろいろ引継もあるでしょうし。」
「ええと、報告は概ね終わりました。あとは女王陛下の決済をいただければ、すぐに召還の運びとなります。あ、画像データをお見せするのを忘れていました。こちらです。」
エルンストはそう言うと書類の最後にクリップで留められていた写真を女王に差し出した。 |