悠久の果てに…(創作1byむく)

とっぷに戻る

 
第一章 力の交替

 
 それは異例中の異例、前代未聞の出来事だった。急速なサクリアの減退感を感じ取った地の守護聖ルヴァがその旨を女王に告げたこと自体は、その変化が急であることを除けば、これまでにも何度となく行われてきた、力の交替の一幕に過ぎなかった。

 通常は現守護聖のサクリアは徐々に減退し、これにかわって、その守護聖と同種のサクリアにめざめつつある人物が出現するので、養成機関の指導の元で、その交替が行われる。だが、その力の変化が急激な場合も過去に何例かあり、新守護聖となる人物がなんの心の準備もなしに聖地に召還されることになるのでトラブルを伴うこともあった。どこの誰が新しくサクリアに目覚めるかは宇宙の女王の意志すら越えたもので、もちろん本人の意思にもまったく関係ないので、いきなり過去のすべてを捨てなくてはならないことに、新任者が抵抗感を感じるのは当然のこととも言えた。それゆえ、ルヴァの報告を聞いた女王は、その急激さに新守護聖の胸中を思い、案じてはいたのだが、それ以上に前代未聞なことが起きようとは想像していなかった。


 
 地の守護聖の交替を報告された王立研究院では、すべての事項に優先して、新たな守護聖となる人物の捜索を行い、その人物を特定するに至った。しかし、その報告データをチェックした主任研究員のエルンストは目を疑った。
「こ、こんなことがあり得るはず、ない…」
エルンストの指示により再度の調査、あらゆるエラーのチェックが行われたが、結論は、そのデータに間違いがないということであった。覚悟を決め、彼は女王の謁見室にそのデータを持参した。
 
 
 謁見室には女王補佐官のロザリアの他に現・地の守護聖のルヴァも同席していた。
「新しい地の守護聖のデータが届いたのね。ご苦労様」
女王は何も知らず、にこやかにエルンストの労をねぎらう。エルンストは異例の報告を行わねばならぬことに内心どぎまぎしながらも、表面上は至って冷静に報告を始めた。
「王立研究院の探索の結果、地のサクリアに目覚めつつある人物を特定することができました。名はリーシアス・デュ・ソマリ。もしかすること、この名にお聞き及びあるかもしれませんが、惑星ソマリの第一王位継承者。」
「なんですって!?」
ロザリアがエルンストの報告をさえぎった。
「そんなことがあるはずないわ。それは、本当に、間違いがないんでしょうね?」
顔色を変えて念を押す補佐官に、女王は不思議そうに尋ねた。
「第一王位継承者だから、何か問題でも?ソマリの民には申し訳ないけれど、王位は第二継承者に継いでもらうしかないでしょう?サクリアの交替はこの私にでも左右することはできないのよ?」
「王位の継承のことを言っているのではありません。わたくしの記憶に間違いがなければ、現ソマリの第一王位継承者は女性のはず。そうですよね、エルンスト」

 
 一番重要な報告をどのように切り出そうか迷っていたエルンストは、簡単にロザリアに指摘され、ややうろたえたものの、冷静な口調で
「その通りです、ロザリア様。」
と言ってから、女王の方を向き直ると
「過去のデータ全てを調べてみました。先代の女王陛下の統べていた宇宙でのデータも全部です。が、女性の守護聖というのは存在しません。宇宙始まって以来のことと思われます。しかし、その女性が急速に地のサクリアに目覚めつつあるのは間違いありません。」
と付け加えた。
「まあ…」
と言ったきり黙っている女王の隣で、
「おやー、そうなんですかー。そんなこともあるんですねー。」
と、まるで今日の天気のことでも話題にしているような呑気さでルヴァが言ったので、女王も我に返り、ルヴァを見やった。他のふたりもつられてルヴァを見た。全員にいっせいに見られたルヴァは、
「おやー、わたしは何か変なことを申したでしょうかー」
とあいかわらずのんびりした調子である。そこへロザリアが
「いえ、ルヴァの言うとおりですわ。事実である以上わたくしたちはそれを受け入れるしかないではないですか。」
と言うと、女王もうなずくき、
「そうね、エルンスト。報告を続けてちょうだい。その方が女性であることはわかりました。その他のデータは?たとえば、聖地、守護聖、女王などに関する知識を前もって持っているのかしら?」
と、先を促した。

 エルンストは手にしたデータを見返し、報告を続ける。
「はい、仮にも一惑星の王族ですから、聖地などに関する基本的な知識は持ち合わせています。といいますか、このソマリを有する恒星系は先代の女王陛下の宇宙からこちらへ移されたもので、ソマリ王族もかなり古い歴史を持っており、過去に女王を出したこともある家柄です。むしろ女王教育は受けていると言った方がいいかもしれません。」
「それなら今回のような急な召還でもすんなり受け入れてもらえそうね。」
女王が安心したようににこやかに言うと、エルンストは
「すんなりかどうかはわかりません。一惑星とは言え、王となり民を統べるつもりでいたのに、宇宙の女王陛下のためとはいえ、他に仕える身とならなければならないのですから、その胸中は複雑かと推察されます。でも、現守護聖はルヴァさまですし、前回のゼフェルさまの件のようなことは起こらないと思いますが。」
と答えたので、ルヴァの顔が曇った。

 「ええ、ええ、ゼフェルのことはねー、私も心が痛みましたからねー。」
同じように表情を曇らしたロザリアとはうらはらに女王はきょとんとしている。
「ゼフェルがどうかしたの?」
「陛下はご存知無かったんですか。」
とロザリアが呆れたように言うと、女王はしゅんとして、小さくうなずいた。
「わたくしたちが女王候補に選ばれた時よりも前の話ですから、ご存知なくてもしかたないのかもしれませんが、王立研究院の極秘記録には残ってます。エルンストだって、研究院に来る前の話なのに、ちゃんと知ってるじゃないですか。陛下はちょっと勉強不足じゃ…」
とロザリアが一気に言うのをルヴァがさえぎり、
「まぁまぁ、ロザリア。その話はまた今度と言うことにして、報告の続きをききましょー。」
と取りなした。
「そうでしたわね。急ぎ新しい地の守護聖を招き入れなければルヴァも安心できませんよね。いろいろ引継もあるでしょうし。」
「ええと、報告は概ね終わりました。あとは女王陛下の決済をいただければ、すぐに召還の運びとなります。あ、画像データをお見せするのを忘れていました。こちらです。」
エルンストはそう言うと書類の最後にクリップで留められていた写真を女王に差し出した。


 「あら」
写真を見て女王は驚いたように声を上げたので、ロザリアとルヴァも両脇から写真をのぞき込んだ。
「女性、と言ったわよね。でも、この写真を見る限りでは、少年のように見えるわ?」
女王がそう思うのも無理ない。そこに写っているのは、礼装の軍服に身を包み、腰には剣を下げた凛々しい姿であったのだ。
「はい。王立研究院でも最初はその方が女性とは思いませんでした。なんでもソマリ王族のならわしで、王位継承者は女性であってもそのような服装をしているようです。しかも王立軍に籍を置き、そこで一定の訓練を受けるということで、かなりの剣の使い手でもあるということです。」
 しばしの沈黙の後、ロザリアが言った。
「それでは、しばらくは男性ということにしておいたらどうでしょう?それでなくても守護聖の交替とはなにかと雑事が多いものなのに、突然女性の守護聖となるとかなりの波紋が予想されますでしょ?名前も、男性名のような感じですし。」
ロザリアの提案に女王はしばし考えたあと答えた。
「ええ、そうね。ロザリアの言うとおりだわ。でも全ての人に隠しておくわけにもいかないでしょ?首座の守護聖ジュリアスには少なくとも報告しておかなければ。それに落ち着いたら本当のことを言わないと、その…えっと、リーシアス、でしたっけ?その方も可愛そうだし。」
「そうですね。それに嘘を強要するというのも気が引けますわね。でしたら積極的に男性だと嘘をつくのではなく、女性であることを黙っている、ということでいかがでしょう?エルンスト。王立研究院でこのことを知る者は?」
「私の他には数名だけですが。」
「でしたら、その者達にもしばらくは新しい地の守護聖が女性であることを他言しないように申しつけなさい。」
「は、了解しました。」

 そんなやりとりを聞いていたのかいないのか、写真を黙ってみていたルヴァが
「それにしても綺麗なコですよねー。何歳なんでしょー?」
と言ったので、女王とロザリアは再度写真を覗き込んだ。きらめくブロンドが肩よりやや長めにウエーブし、肌の色は透き通るように白い。きりっと引き締まった口元など、若いながらもさすがに王者の風格を備えている。瞳の色は深い碧。一方、エルンストはルヴァの質問に答えるべく書類を見やり、
「16歳、です。」
と答えた。
「報告が終わりなら、決済します。書類をこちらへ。」
しばしの間の後、女王が言うと、ロザリアも
「そうでしたわね。一刻の猶予もなりませんね。エルンスト、すぐに召還の手配をしてちょうだい。」
と付け加えた。

 決済された書類を手にしたエルンストが手続きを進めるべく退室すると、ロザリアは補佐官らしくてきぱきと、今度はお付きの者に、光の守護聖ジュリアスを呼ぶように申し付ける。そして、
「ルヴァはもう少しここに残って下さい。」
と言うと、ほんのり頬を赤らめ、
「陛下とジュリアスがお揃いになったら、例の報告もしたらどうかと思いますの。」
と続けた。
「例の報告?」
一瞬ぽかんとしたルヴァであったが、すぐにロザリアの言わんとすることがわかり、同じように頬を赤らめた。二人の様子を見ていた女王は、
「あら、一体なんなの?あやしいわよ、二人とも。」
と問いつめたのであるが、ジュリアスが来てからと、ただ微笑んでいるだけの二人であった。


 
第二章
(第一章 コメント)
 
むく 「というわけで、イキナリ、ルヴァさま引退の運びとなってしまいました(T.T)。」
ルヴァさま 「あー、でも、話の進行上仕方なかったんですよねぇ。わたしのことは気にしないでいいですからね。」
むく 「聖地から追い出したりはしませんので…では、どうなるか、というと…予想つきますよね(^_^;)」
ルヴァさま 「はぁ、つきますが、ちょっと恥ずかしいというか、なんというか…」
むく 「この話は、SP2の女王試験の途中という設定なので、ここでルヴァさま退任、新守護聖誕生ということは、完全にパラレルワールドの世界になります。覚悟してください(?)。
 ところで、主人公のイメージがベルばらのオスカルになります。名前は炎様とかぶらないように変更したし、性格はちょっと違うかもしれません。わたくしめが勝手に味付けしております。」
ルヴァさま 「ベルばらってなんでしょうか?」
むく 「ルヴァさまのお好きな辺境惑星で大昔に流行ったコミックです。」
ルヴァさま 「そうなんですかー。では、今度読んでみましょうねぇ。」

とっぷに戻る