望遠/広角:作家と評論家の交流に焦点

 「島尾敏雄と奥野健男」と題した企画展が東京の白根記念渋谷区郷土博物館・文学館(電話03・3486・2791)で開かれている。作家と評論家の交流に焦点をあてた極めてユニークな試みだ。

 島尾は第二次大戦中、特攻隊指揮官とし加計呂麻島に赴任し、出撃命令を受けた後で敗戦を迎えた。その極限的な体験を背景に、創作活動を展開。神経を病んだ妻との日々を見据えた小説『死の棘』は、戦後文学の到達点ともいわれる。

 一方、奥野は島尾作品を初期から高く評価し、島尾の死に至るまで、その文学を擁護し、見守り続けた。ヨーロッパ文学の直輸入ではなく、日本の日常に泥まみれになって密着しながら、これまでの私小説を超えた作品を書き、日本文学の可能性を切り開いた、というのだ。

 同館は6年前、渋谷区に住んでいた奥野の遺族から1万点以上の資料を寄贈された。その中から、奥野がとりわけ大切に保管していた島尾関連のものを中心にして、一人の評論家から見た小説家の姿を浮き彫りにする展覧会を企画した。

 展示されているのは、島尾から奥野にあてた書簡や奥野の直筆原稿、写真、手帳、初版本、島尾夫人が奥野に贈った手織りの大島紬(つむぎ)など、約100点。島尾が撮影した奄美の写真も、珍しい資料だ。

 奥野の評論が島尾の背中を押し、島尾の新しい小説が奥野の考えを深める。2人の交流がそんなダイナミズムを生んでいることが伝わってくる。

 担当した服部比呂美・学芸員は「2人の深い友情とともに、出版社や社会のあり方に迎合しない志を感じました。戦後の喪失感と、そこから新しい文学をつくっていこうとする思いが、2人に共通していたと思うのです」と話す。

 同展は3月21日まで。入館料は一般100円、小・中学生50円、60歳以上無料。入館者には島尾文学や2人の関係を解説したパンフレットが無料で配られている。【重里徹也】

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 『死の棘』などで知られる作家と文芸評論家の交流を紹介する企画展「島尾敏雄と奥野健男」が、東京の渋谷区郷土博物館・文学館(電話03・3486・2791)で開かれている。

 生涯を渋谷で過ごした奥野健男(1926〜97年)は、島尾敏雄(17〜86年)のファンであることを公言し、その作品を高く評価していた。同展は、公私にわたる2人の親交を示す写真や書簡を公開。作家と評論家が互いに刺激を与えながら、文学作品が生まれた時代を振り返っている。

 3月21日まで。一般100円、小・中学生50円、60歳以上無料。月曜休館(月曜が祝日の場合は翌日休館)。

毎日新聞 2011126日 東京夕刊

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