悠久の果てに…(創作1byむく)

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第十五章 聖地の異変

 
 ゼフェルのほうは1日ゆっくり休んだだけで回復したが、リーシアスのほうは1週間寝込んでしまった。サクリアを要すること以外の地の守護聖としての仕事は、前任のルヴァが代理を務めた。リーシアスが病気と聞いて、見舞いに訪れた者も多かったが、ゼフェルは行かなかった。だんだん、考えれば考えるほど、リーシアスにどんな顔で会えばいいのかわからなくなってしまったのだ。1週間も仕事を休ませる羽目に陥れたのは自分の責任だ。それも謝らないといけないんじゃないかと思う。でも、リーシアスを目の前にして、きちんと話をする自信がなかった。なんどか足を運びかけたが、途中でやめてしまっていた。

 時が経つほど余計ぎこちなさが湧いてくる。1週間が過ぎて、やっと仕事に復帰したリーシアスがゼフェルの執務室を訪問したときも、ゼフェルはどんなふうに対応していいのかわからなかった。リーシアスの顔を見た途端に、窓ガラスに映っていた、彼女の白い背中を思い浮かべてしまう。返事もそこそこに用があるからと追い返してしまった。閉められたドアを見て、つぶやく。
「おれ、どうしちまったんだろう。」

 一方、リーシアスはそんなゼフェルの態度が悲しかった。その後も何回かゼフェルに会ったが、どうも彼は自分を避けているようだ。前に、ゼフェルが、<女なんて、すぐぴーぴー泣くし、うるさくてめんどくせー>と言っていたのを思い出す。
(女とわかって、やになっちゃったのかな)
実際はむしろその逆に近いとは知る由もない。ゼフェルと一緒に技術の話をしたり、メカの改造をしたりするのはとても楽しかった。もう、あんな風には過ごせないだろうか。病気が回復してからもどことなく元気のないリーシアスを心配して、ランディがいろいろ気遣ってくれたが、ランディと一緒にいても前ほどうれしく感じなくなっていた。そんなときに事件が起きた。

 その日は朝から妙な天候だった。気候を安定させてある聖地にはあるまじきことである。
守護聖全員が女王の元に召集される。旧き城跡の惑星がどうも異変の元であるようなので、守護聖の誰かに偵察に行って欲しいというのである。ジュリアスが驚いて問い返す。
「それは、守護聖じきじきに調査に行かねばならぬほど重要なことであるということか。」
女王もロザリアも頷く。危険が伴うかもしれないので、志願を望む、と付け加える。
「本来なら、おれが行くべきなんだろうが、今は炎の力が強く求められている時期。今聖地を離れるわけにはいかない。」
オスカーが言うと、リーシアスが1歩進み出た。
「それならば、わたしが行きます。今は地の力はそれほど必要とされていませんし…」
それをゼフェルがさえぎった。

 「け、女なんかに任せておけるかよ。」
リーシアスが驚いた顔でゼフェルを見た。そんな危険かもしれない任務に彼女を行かせたくない、というのがゼフェルの本心だったのだが、ゼフェル自信がそんな自分の本心に気付いていないのだ。
「何を言うんだ!」
ランディが咎める。ふん、という感じでゼフェルが続けた。
「だから、おれが行くよ。」
文句は言わせないぞ、という顔で女王を見る。女王が頷き、言った。
「そうね、それがいいわね。でも、ひとりでは危険なので…」
と言って女王はランディの顔を見、
「ランディ、一緒に行ってちょうだい。」
「お、おれですか?」
ランディが言うとゼフェルが
「なんだよ、不服そうだな。」
と言い返す。喧嘩になりそうな気配だったが、ジュリアスの叱責もあって、ふたりは偵察を引き受けた。

 ふたりが出かけた後で、それは聖地を襲った。最初に気付いたのは女王である。窓の外の嵐を不安そうな面もちで見ていたが、
「いやな予感がするわ。」
と言った後、振り返ってロザリアに叫んだ。
「逃げて!ロザリア」

 かろうじて逃げ出したロザリアは、聖地の様子を心配して見に来たヴィクトールに援護され次元回廊を抜けて、新宇宙にいるアンジェリークに助けを求めに行った。一方女王も敵の手にとらえられることなく東の塔に逃げ込むことに成功したが、そのまま塔の扉は敵の手により封印されてしまった。

 敵、とは、この宇宙の女王の力を手中におさめんものと、他の宇宙からやってきた皇帝レヴィアスと彼の魔導の力によって操られている配下の者達である。聖地に残っていた守護聖達は、みなとらえられてしまった。もともとオスカーとリーシアス以外は闘いには慣れてない上に、女王を人質にとったと嘘を言われては、抵抗することもできなかったのである。

  その頃、ゼフェルとランディも旧き城跡の惑星にとらえられていた。
「こんな時に言うのもなんだけど、リーがおまえのこと気にしていたぞ。」
脱出する術がないか一通り試みたが、どうにもならないことがわかると、ランディがゼフェルにそう言った。
「え?」
何か作って脱出できないかと、手持ちの材料を調べていたゼフェルがランディを見た。
「おまえが最近自分のことを避けているみたいだ、って言っていたよ、彼女。すごく悲しそうだった。おまえに嫌われたってね。何かあったのか?」
ランディのまっすぐな瞳に問われ、ゼフェルは目をそらす。今は、こっちの方が大事、という様子で、何かを組み立てながら、
「別に何にもねーよ。」
とだけ答えた。
(リー、今頃あいつ、どうしてっかな)
そこではっと気づく。
「なぁ、ランディ。もしかして他の守護聖どもも、つかまっちまったのかな?」
「そうだなぁ、たぶん。」
「たぶん、って…」
ゼフェルは一瞬口ごもったが、
「それじゃ、リーも捕まったってことになるのかよ。あいつは、あいつは、女なんだぜ。わけのわかんねー連中に捕まって、もし女だってばれたら、どうなることか…」
一気にまくし立てる。リーシアスの顔が脳裏に浮かぶ。

 (おれ、まだ、この前のこと、おめーに謝ってねーのに。おめーのことが嫌いだから避けてたんじゃねー。ただ、おめーの顔を見ると、どんな態度を取っていいのかわからなくなっちまって、それで…。もしも、おめーになんかあったら、おれ…)
「ちくしょう」
牢の格子をげんこつで叩いた。その時すごい音がした。ゼフェルは一瞬げんこつで格子が壊れたのかと思ったが、音は牢の外から聞こえてきたようだ。さらに騒がしい音が続いたと思ったら、急に静かになった。牢に続く通路に現れたのは、まずヴィクトール。その後ろから、見たことのない衣装をつけ、蒼い宝玉のはめこまれたロッドを持った、アンジェリークが来た。

「アンジェリーク!」
ランディが叫んで格子にかけよる。さらになつかしい面々が続いてくる。
「エルンストに、セイランに、ティムカとメル!」
最後に、グレーの髪の見知らぬ青年とマルセルが来る。ヴィクトールが牢の鍵を開けた。
「アンジェリーク、まさか君が助けに来てくれるなんて。」
ランディはまっさきにアンジェリークのそばにより、そう言った。
「ランディさま」
ランディを見つめるアンジェリークの瞳も輝いている。

 ヴィクトールがふたりに今までのいきさつを説明した。
「それじゃ、まだ他のやつらはつかまったままなんだな?…リーも。」
ゼフェルが聞くと、
「リーシアスさまはジュリアスさまと共に、流れゆく砂の惑星に捕らえられているもの思われます。」
とエルンストが説明した。
「なんで、リーシアスを先に助けねーんだよ。まったく…。すぐそこに行こうぜ。」
ゼフェルの言葉に、反対する者はなかった。
「ところで、そいつは誰なんだ?」
ゼフェルが見知らぬ青年を見て言う。アンジェリークが紹介した。ティムカを仲間にするために白亜宮の惑星に立ち寄ったとき、アンジェリークが休んでいた宿が火事になり、燃えさかる炎の中から彼女を助け出した命の恩人だと。
(こいつの顔、どっかて見たことあるような気がするな)
ゼフェルはそう思ったが、どこでだったかは思い出せなかった。

 

第十六章(準備中)
(第十五章 コメント)
 
むく 「最近娘が「天空…」を始めたので、オープニングを見ていたら、微妙に違ってましたね(^_^;)
ま、よく似たパラレルワールドってことで、ご勘弁くださいましm(__)m」
ゼフェルさま 「そもそも主人公が別人なんだから、気にするこたぁないって」
むく 「あはは……(^^ゞ」

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