続バーチャルトリップ−展望席のある列車 日々、YouTubeにおいて先頭車両カブリツキ映像作品を楽しませてもらっているが、その対象がJR各社を始め大手私鉄からローカル私鉄までの全国規模で網羅されているのに驚く。それぞれの地元の作者が撮り集めたものや、ひとりで各地に遠征して撮影してくるものなどさまざまだが、とにかくその膨大な作品群はカブリツキという行為が鉄道好きのなかでいかに多くの支持を集めているかを表わしている。電車に乗るとたいてい運転席のうしろに張り付いている人を見かける。その人が鉄道ファンかどうかはわからないが、ファンでなくても走る電車からの先頭風景は面白いのだ。 このようなカブリツキ映像が圧倒的に多いのは通勤車両など一般型車両からのもので、日ごろ乗りなれた電車の、時間にして数分くらいのワンカットだ。その時の乗車区間を撮ってみたという習作風作品だ。それが起点駅から終点駅までの全線モノになり、さらに特定車両や特急列車といったこだわりモノになって、ストーリーをもった作品に発展してゆく。 撮影時間は一般列車の場合は最長でも2時間前後だが、ほとんどは運転席の後ろのガラス越しにカメラを構えることになる。車内が混み合って来たり、乗り降りが頻繁になると一般客の邪魔にならないように気を遣わねばならない。しかもだいたいは立ちっぱなしだろう。くたびれることは間違いない。 一方、一部の特急列車では先頭車両の運転席の後ろを展望座席としている。このような場合には、カメラをセットしさえすれば座っていられるし、ほかの乗客に迷惑になることは少ない。JRの特急列車の全線モノになると5時間くらいにはなるので、環境としては最適である。しかし、このような展望席は一部を除いて多くが有料指定席となっていて、いつでもカブリつけるわけではない。したがってこの撮影には最前席を確保するなど事前の計画が必要で、鉄道会社にはあらかじめ申請しておくことも必要とされる。天候などが撮影を左右するリスクもある。 いずれにしてもかなりの苦労がつきまとうが、有料指定券を買ってそんな苦労をものともせずに撮影している。誰かに頼まれたわけでもなく、自分の楽しみでやっていることだろうが作者諸氏には敬意を表する。
このような展望席をもつ特急型車両は中部・関西地域に多い。JR東海の看板列車であるワイドビューシリーズは、383系電車の「しなの」や、キハ85系気動車の「ひだ」・「南紀」が活躍している。JR西日本では381系電車の「スーパーくろしお」、「やくも」、283系電車の「オーシャンアロー」、智頭急行のHOT7000系気動車の「スーパーはくと」などが代表的だ。いずれも急カーブの多い路線を走るため、振り子装置つきの構造となっている。「スーパーくろしお」381系は老朽化に伴って、新型の287系への置き換えが進んでいるが、先頭車両は両方とも高運転台となって展望席はなくなった。「やくも」もそのうち同様になるのだろう。
私鉄ではなんといっても近鉄特急が圧巻だ。名阪をむすぶ「アーバンライナー」21000・21010系、京都・名古屋と伊勢志摩をむすぶ「伊勢志摩ライナー」23000系、南大阪線・吉野線の「さくらライナー」26000系などの豪華仕様の列車が縦横に走る。さらに50000系「しまかぜ」という新型車両がデビューした。
一方、東日本の先頭展望車事情では、JR東日本の「踊り子」251系電車、485系電車を改造した「リゾートやまどり」、キハ40系改造型の「リゾートしらかみ」などが代表。
これまでに述べた展望席は運転席の後ろに設けられた座席だが、これとは別に先頭車両の最前面に座席を設けた本格的な展望席をもつ列車がある。小田急のロマンスカーと名鉄のパノラマカーがその代表格だ。このタイプの車両は運転席を客室の上または下に置いて、客室最前面から横数列を展望席にしているのが特徴だ。座席も前にいくほど低くして後ろの座席からの視界を確保している。
ところで、展望席はおろか特急列車の最先端に陣取って撮影された映像がある。青函トンネルを通って青森と函館をむすぶJR北海道の「スーパー白鳥」の全線映像だ。車両はJR北海道の789系電車だが、この先頭車両は高運転台でその下には通路がある。そしてその通路の先端の貫通ドアにはガラスがはめこまれていて、まさに究極のカブリツキができるのだ。運転士よりも前の位置から津軽海峡線を最高速度130km/h(青函トンネル内は140km/h)で突っ走る様子をとらえている。おそらくカメラマン氏は三脚を据えて立ちっぱなしか、あるいはアルミのカメラバッグあたりに腰かけて撮ったのだろう。
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最近の全体的な傾向として、展望席のある車両は減っている。それは、特急車両も固定編成ではなく、増結・分割をやりやすい編成にして車両運用の効率を上げる方向にあるためだ。展望席のある車両は先頭にもってこなければならず、編成がどうしても固定化する。そのため、展望席をやめて高運転台で貫通扉をもった先頭車両とすると同時に編成を短くする方式になりつつある。そうすれば、増解結がしやすくなるわけである。もっとも、JR東海のワイドビュー「ひだ」や「南紀」では展望席にこだわらずに展望車両を中間車として組み込むなど柔軟に編成を組んでいる。これは気動車のため増解結がやりやすいためだろう。 (2012.12.16) |
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